『コロナの時代の僕ら』 パオロ・ジョルダーノ 早川書房
時間の差こそあれ、世界中でこれだけ多くの人が同じ問題に直面したことはなかったかもしれません。このエッセイは2~3月にイタリアで書かれたものです。世界中で事態はより広範囲により深刻になっていますが、本質はこのエッセイが書かれた時も、それ以前も、これから先も変わらないと思います。
⦅ 本文より ⦆
「僕は忘れたくない。今回の緊急事態があっという間に、自分たちが、望みも、抱えている問題もそれぞれ異なる個人の混成集団であることを僕らに忘れさせたことを。みんなに語りかける必要に迫られた僕たちが大概、まるで相手がイタリア語を理解し、コンピューターを持っていて、しかもそれを使いこなせる市民であるかのようにふるまったことを。
僕は忘れたくない。ヨーロッパが出遅れたことを。遅刻もいいところだった。そのうえ、感染状況を示す各国のグラフの横に、この災難下でも僕らは一体だとせめて象徴的に感じさせるために、もうひとつ、全ヨーロッパの平均値のグラフを並べることを誰ひとりとして思いつかなかったことを。
僕は忘れたくない。今回のパンデミックのそもそもの原因が秘密の軍事実験などではなく、自然と環境に対する人間の危うい接し方、森林破壊、僕らの軽率な消費行動にこそあることを。
僕は忘れたくない。家族をひとつにまとめる役目において自分が英雄的でもなければ、常にどっしりと構えていることもできず、先見の明もなかったことを。必要に迫られても、誰かを元気にするどころか、自分すらろくに励ませなかったことを。」
会いたい人に会えなかった時間、身近な人と長く過ごせた時間、コロナの中で僕も大切なこと、大切なもの、大切な人がなんとなくですが、わかったような気がしました。
そのことをいつまでも忘れないようにしたいです。
(研修センター 井川)